かっちゃんの日記

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2017年9月 国立劇場 文楽公演|玉藻前曦袂

国立劇場 第二〇〇回文楽公演 平成二十九年九月(9月2日~18日)

<第二部>
玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)
 清水寺の段〈約21分〉
 道春館の段〈約1時間22分〉※終了後、休憩30分
 神泉苑の段〈約34分〉
 廊下の段〈約18分〉※終了後、休憩10分
 訴訟の段〈約23分〉
 祈りの段〈約30分〉※終了後、休憩10分
 化粧殺生石〈約25分〉

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国立劇場の案内ちらしをお借りしました
玉藻前曦袂」(撮影:青木信二)

 
休憩を含めて5時間近い公演でしたが、ほろっとさせる場面や、人形を遣う文楽ならではの「おおっ!」という見せ場もたくさんあり、目いっぱい楽しんできました。

前半で印象的だったのは道春館の段です。主な登場人物は、藤原道春(故人)の妻である「萩の方」、夫婦が清水寺を参拝した際に拾い今まで育てきた「桂姫」、実の娘である妹の「初花姫」、そして実は桂姫の父親で、薄雲皇子(←謀反を企み中)の家来となっている「鷲塚金藤次」です。

薄雲皇子の理不尽な要求により、桂姫の首を差し出すように金藤次が萩の方に迫りますが、神から授かった桂姫は討てない、初花姫を身代りにしたい、それが無理なら、双六で勝負して負けた方の首を討つというのはどうかと持ちかけます。

それを聞いていた姉妹は、覚悟の白装束で現れます。そして桂姫は、死ぬ前に産みの父上母様の顔を一目見たかったと語ります。(その時の金藤次の様子に注目です)
姉妹は双六を始め、お互いに勝ちを譲り合うのですが、最終的に桂姫が勝ちます。ところが、金藤次は桂姫の首を打ち取りました。

怒った萩の方と、隠れていた安倍采女之助が金藤次を切りつけとどめを刺そうとしたところ、金藤次は桂姫が自分の娘であることを明かします。そして実の娘と同じように育ててくれた萩の方への恩義、薄雲皇子に仕える事への複雑な思い、そして桂姫が父上に会いたいと言ってくれたときに言い出せなかった苦しい胸の内を切々と語ります。語りは竹本千歳太夫さん、三味線は豊澤富助さんです。

「コリヤ娘。父(てて)ぢやわやい/\、父ぢや/\父ぢや/\わやい。なぜもの言うてはくれぬ」
「今際になつて二親を焦がれ慕うた心根がいぢらしいやら不便なやら、その時名乗るは易けれども、恩義の二字に絡まれてぢつと堪ゆる辛抱は、熱鉄を飲む心地ぞや。焼野の雉子夜の鶴、子を憐れまぬはなきと聞く。あたら蕾を胴欲に首討ち落とし手柄顔。むごい親ぢやと冥途から恨みん事の可愛や」
と、金藤次は桂姫の首を手に男泣きします。

そして荻の方も「一樹の陰の雨宿り一河の流れを汲む人も、深い縁と聞くものを藁の上から育て上げ、手塩にかけた親ぢやもの、可愛うなうて何とせう、十七年の春秋が一期の夢であつたか」と涙ながらに語ります。ここで自分も思わずじわっときてしまいました。いま書いていても思い出します。この後、初花姫に入内の吉報が届くのですが、「桂姫の首は薄雲皇子に差し出されるけれど、そのあと金藤次と親子一緒のお墓に入れたんかな」と考えたりして、親子の情愛の余韻を残してこの段は終了します。

続いて後半です。神泉苑の段の冒頭で「玉藻前」と名前を改めて入代した初花姫に妖狐が襲い掛かり、のりうつります。妖しい狐と書いて妖狐(ようこ)です。本朝廿四孝には白い狐が出てきますが、玉藻前曦袂は金色に輝く九尾の狐です。ササッ、ササッと素早く動き回った後、動きを止めてこちらを睨みつけます。妖狐を遣うのは桐竹勘十郎さんです。

妖狐は日本を魔界にしようと企んでいて、謀反を画策する薄雲皇子と手を組みます。しかし、陰陽師の安倍泰成にその正体を暴かれ、その企てを果たすことはできず、那須野が原に飛び立ち「殺生石」となります。さまざまな姿に化けて、人々を悩ませるのですが、ここで勘十郎さんが遣う人形が次々と早替わりする「七化け」が披露されます。これはすごかったな~。太夫は豊竹咲甫太夫さんをはじめ5人、三味線も鶴澤藤蔵さんをはじめ5人、計10人が床に並び、三味線の連弾は迫力があり、高まっていく感がありました。

七化けが終盤に近づいた頃には、割れんばかりの拍手が鳴りやみませんでした。ひょっとしてスタンディングオベーションになるんちゃうかとも思いましたが、いつものように幕がシャーッと閉じて終わりました。

後半は話をだいぶ端折りましたが、訴訟の段で、薄雲皇子が気に入って連れ帰った傾城の亀菊がめちゃめちゃなお裁きをする場面も面白かったです。宰相が貸した金を返してくれないと訴えるお局に対して、「お前もよい年をしてチト嗜みなませ、人に貸したお銭を戻せというやうな無理な事があるものかいナ・・」と言い放ちます。「よい年をして」というところが妙にリアルな言いぐさで笑ってしまいました。

いや~、今回もええ体験をさせてもらいました。ありがとうございました!

<公式サイトへのリンク>
国立劇場 2017年9月文楽公演