かっちゃんの日記

 -見て、聴いて、楽しかったこと、嬉しかったことの覚え書きです

2017年11月 国立能楽堂 企画公演|薩摩守・紅葉狩

国立能楽堂 十一月 企画公演(2017年11月30日)
狂言大蔵流】|薩摩守(約30分)
・実演解説 装束付け 山階彌右衛門(約25分)※終了後、休憩20分
・能【金剛流】|紅葉狩  鬼揃(約80分)

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国立能楽堂の案内ちらしをお借りしました。
(左)企画公演ちらし、(右)縹地朝鮮錦単法被(江戸時代・十八世紀・国立能楽堂蔵)

 

しばらくぶりに国立能楽堂へ行ってきました。門のところで守衛さんと「こんにちは」と挨拶を交わすのも久しぶりで嬉しや。今回は「働く貴方に贈る」と題された平日の19時スタートの企画公演です。会社からダッシュで駆け込みました。狂言と能の間に能の装束付けの実演解説も組み込まれていて、こちらも楽しみにしていました。

薩摩守
まずは狂言薩摩守です。出家(僧)が大阪の住吉や天王寺に参詣する途中に、茶屋に立ち寄って喉を潤すのですが、お茶のお代を払わずに立ち去ろうとします。茶屋の主人が呼び止めると出家はお金は持っていないと答えます。気の毒に思った主人はお茶のお代をただにしてくれた上に、川を渡るときの指南をしてくれます。それは船頭は秀句(しゃれ)が好きなので、船賃がないなら秀句で応酬すればよいというものでした。平家物語に登場する「薩摩守忠度(さつまのかみ ただのり)に引っ掛けて、「船賃は薩摩守」という振りの秀句と、その心である「忠度(船に”ただ乗り”とかけている)」を教えました。出家は教えられた通りに船頭に秀句を振ったところ、船頭は機嫌を良くしますが、出家はうっかりその心を忘れてしまいます。わくわくしながら答えを待つ船頭に問われてしどろもどろで面白くない回答をしてしまうというお話です。最後のセリフが出家の面白くない答えなので、なんだかシュルシュルと尻すぼみであっけない感じで終わってしまうのですが、この時代の出家は気楽な稼業だったのかしらというくらいシテの出家(大蔵基誠さん)の終始何事にも動じない笑顔が可笑しかったです。

■実演解説 装束付け
続いて山階彌右衛門さん(シテ方観世流)による能の装束付けの実演解説です。摺箔(すりはく)、袴、唐織と、それぞれの装束と着付けの方法を1つ1つ説明してくださいます。胸元から見える摺箔は、金や銀の箔で模様を付けたもので、暗い能舞台で能面を明るく見せる効果があること、女性の着付けの裾(すそ)の部分は、最後を少し上げるように縫いつけて形をほっそりさせることで女性らしく見せていること、装束の色や柄でその役柄の階級が理解できることなど、初めて知ることやなるほどと思うことがたくさんありました。(また山階さんのお話が楽しい!)これから能を見るときにより楽しむことができそうですし、もっと詳しく知りたいとも思いました。まずは図書館に行こうかな!

■紅葉狩
最後のお能は紅葉狩です。舞台となるのは信濃の国戸隠山。紅葉狩を楽しむ女と侍女たちの近くを、平維茂の一行が通りかかります。維茂は女から酒宴に誘われ、酒を飲み女たちの舞いを楽しんでいるうちに眠ってしまったところ、女たちは姿を消します。その時、維茂の夢の中に八幡神に仕える武内の神が現れます。女たちが戸隠山の鬼であることを伝え、太刀を授けて目を覚ますようにと告げます。維茂が目を覚ますと女たちが鬼の姿で現れました。維茂は襲い掛かる鬼たちを武内の神から授けられた太刀で応酬し見事に退治します。
「維茂少しも騒ぎ給はず、南無や八幡大菩薩と、心に念じ、剣を抜いて、待ちかけ給へば、微塵に為さんと、飛んで懸かるを、飛び違ひむずと組み鬼神の真ん中刺し通す所を頭を掴んで上がらんとするを、切り払ひ給へば剣に恐れて巌へ登るを、引き下ろし刺し通し忽ち鬼神を従へ給ふ、威勢の程こそ恐ろしけれ」

いや~、圧倒されました。終わってからもしばらくぼーっとしていました。
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この絵はなんやねんて感じですが、鬼の姿になる前の女1人(一番前)と侍女5人(二列目・三列目)がこういうフォーメーションで、じわじわ前に歩み寄りながら舞う場面があるのです。ものすごく威圧感があってぞくぞくしました。後半で女たちが鬼の姿になったときよりずっと怖かったです。
通常の上演では、前半は女(シテ)だけが舞い、後半も鬼となって登場するのはシテ一人だけなのだそうです。今回は「鬼揃え」という小書が付いていて、前半は女とその侍女が5人が舞い(上記のフォーメーションも含む)、後半は女も侍女も全員が鬼となって登場し、舞台狭しと維茂と激しく戦います。

前半の笛と小鼓と大鼓のゆったりとした一定の調子に心地よさを感じていたので、女が維茂が寝入ったのを見つけるやいなやの(この瞬間がまた怖かった)、調子の変化に背筋がゾクっと緊張しました。

話の筋が明解で、華やかさがあって、舞や謡にぐいぐい引き込まれるので、私も含めた初心者にもわかりやすいと思いました。今回もよい体験をさせていただきありがとうございました!

<公式サイトへのリンク>
国立能楽堂 2017年11月企画公演