かっちゃんの日記

 -見て、聴いて、楽しかったこと、嬉しかったことの覚え書きです

2018年2月 国立劇場 文楽公演|八代目竹本綱太夫五十回忌追善・豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露

国立劇場 平成三十年二月文楽公演(2月10日~26日)
<第一部>
・心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)
上田村の段(約56分)※終了後、休憩30分
八百屋の段(約43分)
道行思ひの短夜(約29分)

<第二部>
・花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)
万才・鷺娘(約21分)

・八代目竹本綱太夫五十回忌追善/豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露
口上

・追善・襲名披露狂言
摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)
合邦住家の段(約1時間40分)

<第三部>
女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)
徳庵堤の段(約27分)
河内屋内の段(45分)※終了後、休憩25分
豊島屋油店の段(約55分)
同   逮夜の段(約20分)

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国立劇場の案内ちらしをお借りしました
「摂州合邦辻」合邦住家の段(撮影:青木信二)

 

今年初めての文楽に行ってきました。わーい。
第二部に、豊竹咲太夫さんの父にあたる八代目竹本綱太夫の五十回忌追善と、咲太夫さんの弟子にあたる豊竹咲甫太夫さんの六代目竹本織太夫襲名披露の口上がありました。「織太夫」は八代目綱太夫の前名です。口上の後、追善・襲名披露狂言として摂州合邦辻が上演されました。また第一部の心中宵庚申、第三部の女殺油地獄についても、八代目綱太夫が曲の伝承に深く寄与しており、口上は第二部に組み込まれていましたが、公演全体として追善の趣がある構成となっていました。

お祝いということもあってか、いつもより和装の方が多かった気がします。「一緒にお祝いする」という気持ちや、それをきっかけに「今日は一張羅を着よう」「いつもよりちょっとおしゃれをして行こう」と楽しめるのはええことやな~と思います。私は普段通りでしたが、またそれも良し。

一方、演目については、第一部から第三部まで、花競四季寿を除いてお祝い感があるものはなく、例によって「何でこの人が死ななあかんねん・・・」という話が見事に揃っていました。それぞれの演目で、形は違えど主人公が息絶えてしまう結末、そこに至るまでに繰り広げられる心が痛くなるような情景に引き込まれました。

特に印象に残ったのは、摂州合邦辻の後場で、今回襲名された織太夫さんと三味線の燕三さんです。後半、玉出御前が瀕死の状態で「実は・・・」と自分の取った行動の裏にあった真実を語り始め、それとは知らず娘を刺してしまった父・合邦が悔みの念と娘への情を語り、そして皆が玉出御前の成仏を願って念仏を唱える場面あるのですが、三味線が「詰めてくる」感じはぞくぞくしました。

とりどり広げる数珠の輪の
中に玉手は気丈の身構へ、俊徳丸を膝元へ、右に懐剣、左に盃
外には父(てて)の親粒が、導師の役と鉦撞木(かねしゅもく)
母は涙の目も開かず、宵は死んだと思ひ子が、回向のための百万遍
今また無事なと悦んだも、露と消え行く勤めの念仏

文字として眺めているだけだと、身近な言葉遣いではないですし、取っつきにくいのですが、節が付いた語りと三味線は、流れるように心地よく頭の中に入ってきます。自分で口に出してみるのも楽しいです。(もちろん公演中は心の中で!)
今回も良い体験をさせていただきありがとうございました。

<追記>
この公演の初日に豊竹始太夫さんが亡くなられました。2017年12月公演のひらかな盛衰記・義仲館の段の義仲役が、私が最後に聴かせていただいたお声になりました。
お祝いの公演が続きなかなか難しいかもしれませんが、どこかのタイミングで献花台など設けられましたらお参りさせていただきたいと思います。まずはこの場で手を合わせて、ご冥福を心よりお祈りいたします。

<公式サイトへのリンク>
国立劇場 2018年2月文楽公

2018年2月 街歩き|国立劇場から東京国立近代美術館

このところ、寒さがやわらぐ日が増えて、春が確実に近づいているのを感じます。
だんだんと暖かくなってくる、だんだんと日の出が早くなり、外が明るくなる時間が早くなってくるのは、なんとも嬉しくなりますね~。

さて先日、国立劇場文楽鑑賞に行ってきました。終演後、お天気も良かったので、周辺を散策しようと思い立ち地図を確認したところ、東京国立近代美術館が近いことを発見しました。近々行こうと思っていた熊谷守一さんの展覧会がこちらで開催されていたのでこれは良いとばかりに嬉々として向かいました。

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google mapでのルート|国立劇場から東京国立近代美術館・徒歩22分】

 私は途中でお堀を眺めたりしながら、ゆっくりと向かったので30分ほどかかったように思いますが、道のアップダウンもあまりなく、緑が多くて歩いていてとても気持ちが良かったです。そしてランナーがめっちゃ多いことにびっくりしました。

道中に、桜の木がたくさんあったので、もう少ししたらお花見をしながらの散歩も楽しめそうで、国立劇場で早めの時間に観劇した後に、時間と少しの体力が残っていましたら、ぜひおすすめの散策コースです。

今回はかわいらしいオオイヌノフグリを見つけました。枯葉と草の間からやっと出たで~という感じで顔を出しています。

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山茶花は、若い葉っぱがつやつやしてきれい!

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美術館を出た後、更にお堀を周りこむように東京駅まで歩き、美味しいパンを買ってほくほくしながら帰りました。
よく訪れるエリアでも、そこから行ったことのない場所に足を延ばしたり、行ったことのある場所でも使ったことのないルートで行ってみるのは、なかなか新鮮で楽しく、これからも外出の際には試してみようと思います!

<メモ>
国立劇場
 竣工:1966年|基本設計:竹中工務店(岩本博行他)|実施設計:建設省営繕局
東京国立近代美術館
 竣工:1969年|設計:谷口吉郎建築設計研究所
 増改築:2001年|設計|国土交通省関東地方建設局営繕部、坂倉建築研究所
 ※現在の場所に移転する前は京橋にあった(現・フィルムセンター)
  1952年開館、設計は前川國男

 

2018年1月 谷川俊太郎 展|東京オペラシティ アートギャラリー

谷川俊太郎 展 
 2018年1月13日〜3月25日
 東京オペラシティ アートギャラリー

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 ※一部の展示を除いて会場内の写真撮影ができました。
   入口で撮影に関する留意事項を記したメモをくださいます。
   
まだまだ会期があるので1枚だけご紹介。

 

東京オペラシティで開催中の谷川俊太郎さんの展覧会に行ってきました。渋谷で用事を済ませてから、初台の東京オペラシティまで路線バスで移動したのですが、バスは電車とはまた違う景色を見ることができるので楽しい!

さて展覧会は、いくつかの展示スペースが設けられていたのですが、いちばん広いスペースに入ると、谷川さんの「自己紹介」という20行の詩が1行ずつに分解され、背の高い柱に縦書きに記されて点在していました。近くに寄ってみると、それぞれの柱にキーワードが名づけられていて(例えば「暮らし」「意識下」「見る」「アノニマス」など)、そのキーワードごとに関連する詩と、コレクション、写真、ハガキなど谷川さんにまつわるものが展示されるという設えになっていました。詩は大きな本の見開きの形で読むことができるようになっています。

それぞれの展示を散歩をするようにゆっくりと見ていると、自分は小さい頃から、谷川さんの詩にたくさん触れてたんだなぁと感じました。いまでも記憶しているもの、頭の奥の方にあって忘れていたけれど、展示を見て「あっ、この詩は!」とするするっと思い出したもの。谷川さんの詩は音にすると楽しいので、子どもの頃の自分がとても好きそうだなと改めて思い返したりしながら、楽しい時間を過ごすことができました。3月25日まで開催されているので、ぜひ行ってみてください。


<メモ>
ギャラリーショップで展覧会の関連書籍を購入しました。タイトルは「こんにちは」。著者は谷川俊太郎さんで、発行はナナロク社さんです。本の装丁が赤・青・黄の3種類あり、楽しく迷って少し緑がかった懐かしい雰囲気の青に決めました。手に取ったときのサイズ感や質感がしっくりきて心地よく、会場で紹介されていた詩も収録されていて嬉しい!じっくり味わおうと思います。また私が行ったときはまだなかったのですが、近日中にオリジナルグッズも発売されるそうです。

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amazonの書影をお借りしました。
   なおamazonで購入する際は色の指定はできないそうです。

<公式サイトへのリンク>
谷川俊太郎 展(東京オペラシティ アートギャラリー)

2018年1月 国立能楽堂 普及公演|伯母ヶ酒・土蜘蛛

国立能楽堂 一月 普及公演(2018年1月13日)
・解説・能楽あんない|能・狂言の妖怪たち
           ―人間との共存を廻って-三浦裕子(約30分)
狂言大蔵流】|伯母ヶ酒(おばがさけ)(約30分)※終了後、休憩20分
・能【金剛流】|土蜘蛛(約60分)

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国立能楽堂の案内ちらしをお借りしました。
白地立湧寿若松模様半切(江戸時代・十九世紀・国立能楽堂蔵)

 

2018年最初の観劇は国立能楽堂でした。今年も健康に気を付けて、しっかり働いて、小気味よく行動できるように頑張るぞ!

まずは狂言の「伯母ヶ酒」からです。酒屋を営む伯母のところへ酒好きの甥が訪ねてきて、酒を飲ませてもらおうとあの手この手で交渉しますが、断られてしまいます。怒った甥は「最近この辺りに鬼が出るぞ」と言い残していったんその場を立ち去ります。ほどなく、鬼の面を付けた甥が再び現れ、伯母を脅して酒蔵にこもりました。やっと酒にありつくことができたのですが、酔いがまわって眠ってしまい、静かになった酒蔵を伯母が覗くと寝ている甥の姿を発見!というお話です。

酒を飲むのに鬼の面がじゃまになり、寝転がって膝を立てて膝頭に鬼の面を付け、膝を動かしながら伯母を脅す文句を言うのですが、それどう見ても無理やで!と突っ込んでくすくすと笑ってしまいました。楽しい初笑いとなりました。

 
続いてお能は「土蜘蛛」です。体調のすぐれない源頼光のところへ侍女の故蝶が薬を届けにきます。そしてその夜、一人の僧が現れ、突然、頼光に蜘蛛の糸を投げかけます。頼光が枕元にあった刀「膝丸」で僧を斬り付けたところ僧は逃げていきました。騒ぎを聞いて家臣の独武者が駆け付け、残った血の跡を辿って従者と伴に退治に向います。

独武者たちは塚に辿り着き、その塚を崩そうとしたところ、土蜘蛛が姿を現し、自分はこの葛城山に長く住む土蜘蛛であると告げます。そして、蜘蛛の糸を投げかけて、独武者たちの手足に纏わりつかせて苦しめますが、最後は独武者が土蜘蛛の首を討ち落とし都へ戻っていくのでした。

最後の場面で、土蜘蛛は何度も何度も蜘蛛の糸を投げかけるのですが、なぜかここでうるっときてしまいました。こんな風に戦わなければいけなかったのか、うまいこと共存することはできなかったのかと、しゅたーっ、しゅたーっと投げかけられる蜘蛛の糸の迫力に圧倒されつつも、土蜘蛛のやるせなさのようなものも感じたお能でした。

年の始めから良い体験をさせていただき、今回もありがとうございました。

 

<メモ>
国立能楽堂の資料展示室では「能の作リ物」が開催中でした。前期(1月6日~2月18日)と後期(2月27日~3月25日)で展示が変わるようです。
江戸時代には「作リ物師」という専門の職人さんが作っていたそうですが、現在では能楽師が作られることが多いそうです。知らんかった!
作リ物の材料、寸法、仕様、作り方などを伝えるための解説書やきれいに彩色された図面やスケッチ、実際の作リ物も展示されていて興味津々で見学させていただきました。また今回はカラー12ページの案内パンフレットが配布されていましたよ。わーい!1部いただいてきたので、また読み返そうと思います。こちらもありがとうございます。

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国立能楽堂の案内パンフレットをお借りしました。

 

 <公式サイトへのリンク>
国立能楽堂 2018年1月普及公演

 

2017年12月 国立劇場 文楽公演|ひらかな盛衰記

国立劇場 平成二十九年十二月文楽公演(12月7日~19日)

・ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)
 義仲館の段〈約31分〉
 大津宿屋の段〈約31分〉
 笹引の段〈約33分〉※終了後、休憩25分
 松右衛門内の段〈約75分〉
 逆櫓の段〈約32分〉

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国立劇場の案内ちらしをお借りしました
 左・右ともに「ひらかな盛衰記」逆櫓の段(撮影:青木信二)


仕事も始まり、2018年も通常モードとなりました。昨年末に国立劇場 12月文楽公演「ひらかな盛衰記」に行ってきたのですが、覚え書きができていなかったので、まずはここからスタートです。何事も遅すぎることはないということで、できるようになったならすぐやろう!

■あらすじ
<義仲館の段>
舞台は京都の木曾義仲の館。山吹御前、息子の駒若君、腰元のお筆の元に、顔色の優れない義仲が戻ってきます。また続いて巴御前も駆け付け、鎌倉方の源頼朝に攻め入れられて、宇治の戦いで味方が敗軍したことを報告します。義仲は「今こそ木曾が最後の門出、巴来たれ」と告げ、山吹御前と駒若君をお筆に託して戦場へ向かいます。(その後、粟津の戦場で義仲は討たれてしまいます)

<大津宿屋の段>
舞台は、大津の宿屋清水屋。二組の家族が隣同士の部屋に宿泊しています。一組は京都から木曾へ向かう、山吹御前、駒若君、お筆、その父である鎌田隼人の一行。もう一組は、摂津国福島の船頭である権四郎、その娘のおよし、およしと前夫の息子の槌松の一行です。権四郎らは亡くなったおよしの前夫を弔う順礼中でした。

そんな中、年の近い駒若君と槌松が夜中に部屋を抜け出します。二人で遊んでいるうちに行燈の灯がばったり消えて泣き出したところに、山吹御前の一行を追ってきた番場忠太が現れ、その騒動で子供が入れ違ってしまいます。

<笹引の段>
お筆は駒若君(のつもり)を片手に抱いて、山吹御前の手を引き宿屋から逃れますが、一緒に逃げた父の隼人は追手に討たれてしまいます。そしてお筆が敵を追っていた隙に、山吹御前の訴えもむなしく、駒若君(と思っていた)は番場忠太に首をはねられてしまいます。戻ったお筆は仰天して悲しみますが、亡骸が身に着けていた笈摺から駒若君ではないこと、宿屋で入れ違ってしまったことに気づきます。駒若君はどこかで生きているとわかったものの、身の弱った山吹御前は息絶えてしまいます。お筆は声の限りを泣き尽くしますが、顔を上げて「お主の仇、父の敵」を取ることを決意し、竹を切って山吹御前の亡骸をそこへ乗せて進んでいきます。

<松右衛門内の段>
舞台は、大津宿屋に泊っていた、摂津国福島の権四郎の家です。子どもが入れ違ってしまったことに気付いた権四郎とおよしでしたが、向こうも槌松にひどいことはしないだろうと考え、いずれ会える日までと駒若君を大事に育てています。
そこへおよしの現夫の松右衛門が帰ってきました。権四郎の指導を受けた船頭の腕を見込まれ、梶原景時源頼朝の家臣)から船を前後左右に動かす逆櫓(さかろ)を他の船頭たちに指導する命を受けたことを嬉しそうに話し、権四郎もおよしも喜びます。

そんな中、お筆が笈摺に書かれていた「摂州福島松右衛門子、槌松」を頼りに権四郎の家にたどり着きました。権四郎とおよしが槌松が戻ってきたと喜んだのも束の間、お筆は槌松を死なせてしまったことを詫び、駒若君を戻してほしいと頼みます。権四郎は怒って、いつか槌松に会えると信じて駒若君を大切に育てていたのにと、駒若君を討ちにいこうとしますが、そこへ松右衛門が駒若君を小脇に抱えて現れます。そして松右衛門は、自分は義仲の家臣である樋口次郎兼光であること告げます。義仲の仇をとるために、権四郎の家に入り婿して逆櫓の技術を学び、梶原に、源に近づく計画だったのです。そして自分の義理の息子である槌松が、駒若君の身代わりになり忠義を立てたのは武士にとって嬉しいことで、自分がこの家の一員となったことの定めと思って諦めてほしい。駒若君の先途を見届けて、自分の武士道を立てさせてほしいと頼みます。権四郎は了承し、お筆は駒若君を連れて去っていきます。権四郎、およし、松右衛門は、笈摺を仏前に供え、涙ながらに槌松の回向をするのでした。

<逆櫓の段>
松右衛門による逆櫓の指導が始まりましたが、指導の途中で船頭たちが、松右衛門に遅いかかります。松右衛門が義仲の家臣である樋口次郎兼光であることを見抜いていた梶原景時の策略だったのです。船頭たちは松右衛門に倒されますが、その時に鐘太鼓の音が響き、松右衛門は自分が包囲されていることに気づきます。そこへ権四郎が畠山庄司重忠を案内して姿を見せます。権四郎は樋口(松右衛門)のことを訴え出た代わりに、樋口とは血のつながらない槌松の命を助けてほしいと頼みます(=駒若君の命を助ける)樋口は喜んで重忠の縄にかかり、権四郎の舟歌に見送られていくのでした。


おおっ、あらすじが長くなってしまいました。
今回特に印象に残っているのは、腰元のお筆で、私が行った日のお筆は吉田勘彌さんが遣われていました。山吹御前と駒若君を守る凛とした姿や、山吹御前の亡骸を竹で運ぶときのやるせなくも何かを決意している姿に引き込まれました。「辺りに繁る竹切って、舁(か)き上げ乗する笹の葉は、亡き魂(たま)送る輿車(こしぐるま)。轅(ながえ)も細き千尋の竹。肩に打ちかけ引く足もしどろもどろに定めなき。淵瀬と変はる世の憂きを身一つに降る涙の雨の、小止めみもやらで道野辺の草葉も浸す袖袂。泣く泣く辿り」

また逆櫓の段では、豊竹睦太夫さんと鶴澤清志郎さんが熱演され、権四郎が最後に取った行動と「極楽へやる救世の舟歌」を唄う最後の場面でぐっときました。権四郎を遣われたのは吉田玉也さんです。権四郎の義理人情の厚さ、孫を可愛いと思う気持ち、状況に対処しようとする心の揺れや葛藤がそんな風に感じさせるのかなと思いました。

今回も良いものを聴かせていただき、見せていただきありがとうございました。今年もたくさん見に行けるように頑張って働くぞ。おーっ。


<公式サイトへのリンク>
国立劇場 2017年12月文楽公演

2017年12月『夜廻り猫』のクリスマス 〜深谷かほる作品展〜|日本橋三越本店

◆『夜廻り猫』のクリスマス 〜深谷かほる作品展〜
 2017年11月22日〜12月5日
 日本橋三越本店 本館7階 はじまりのカフェ GATE A・B/カフェスペース

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日本橋三越本店 本館正面玄関のライオン像と『夜廻り猫』御一行さま

 

それほどたくさんの漫画を知らない私ですが、深谷かほるさんの『夜廻り猫』が大好きで、ときどきしみじみと読み返しています。この漫画を読むと、自分に無理をするということではなく、でも口角をキュッと上げて、機嫌よく、もちょっと頑張ってみよかなと思えるのです。

今回の日本橋三越本店での作品展は、仕切られた部屋ではなくて、オープンなカフェの中とその周りに、クリスマスをイメージしたさまざまな作品が展示されていました。期間中、深谷さんが会場に出向いて制作しておられた大きな絵、くすっと楽しいオーナメントが飾られたクリスマスツリー、クリスマスケーキのオブジェ(なぜかてっぺんにサンマが乗っている!)を『夜廻り猫』に登場する猫たちがモチーフとなった陶器のお皿が囲むテーブルセッティング。「来てくれてありがとう」のウェルカムボード、スタンプが2種類(手帳に押しました!)、自由に持ち帰りができる夜廻り新聞など、訪れた人が目一杯楽しめるようにという気持ちがあふれ出ていて、とても穏やかな空気に包まれた作品展でした。にっこり。

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深谷さんが期間中に制作しておられた絵をクリスマスツリーの間から見たところです。
12月3日の訪問時の写真ですが、最終日まで更に描き進められたそうです。

 

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『夜廻り猫』のクリスマスのテーブルセッティング。楽しい!


<公式サイトへのリンク>
『夜廻り猫』のクリスマス 〜深谷かほる作品展〜(日本橋三越本店)

 

2017年11月 国立能楽堂 企画公演|薩摩守・紅葉狩

国立能楽堂 十一月 企画公演(2017年11月30日)
狂言大蔵流】|薩摩守(約30分)
・実演解説 装束付け 山階彌右衛門(約25分)※終了後、休憩20分
・能【金剛流】|紅葉狩  鬼揃(約80分)

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国立能楽堂の案内ちらしをお借りしました。
(左)企画公演ちらし、(右)縹地朝鮮錦単法被(江戸時代・十八世紀・国立能楽堂蔵)

 

しばらくぶりに国立能楽堂へ行ってきました。門のところで守衛さんと「こんにちは」と挨拶を交わすのも久しぶりで嬉しや。今回は「働く貴方に贈る」と題された平日の19時スタートの企画公演です。会社からダッシュで駆け込みました。狂言と能の間に能の装束付けの実演解説も組み込まれていて、こちらも楽しみにしていました。

薩摩守
まずは狂言薩摩守です。出家(僧)が大阪の住吉や天王寺に参詣する途中に、茶屋に立ち寄って喉を潤すのですが、お茶のお代を払わずに立ち去ろうとします。茶屋の主人が呼び止めると出家はお金は持っていないと答えます。気の毒に思った主人はお茶のお代をただにしてくれた上に、川を渡るときの指南をしてくれます。それは船頭は秀句(しゃれ)が好きなので、船賃がないなら秀句で応酬すればよいというものでした。平家物語に登場する「薩摩守忠度(さつまのかみ ただのり)に引っ掛けて、「船賃は薩摩守」という振りの秀句と、その心である「忠度(船に”ただ乗り”とかけている)」を教えました。出家は教えられた通りに船頭に秀句を振ったところ、船頭は機嫌を良くしますが、出家はうっかりその心を忘れてしまいます。わくわくしながら答えを待つ船頭に問われてしどろもどろで面白くない回答をしてしまうというお話です。最後のセリフが出家の面白くない答えなので、なんだかシュルシュルと尻すぼみであっけない感じで終わってしまうのですが、この時代の出家は気楽な稼業だったのかしらというくらいシテの出家(大蔵基誠さん)の終始何事にも動じない笑顔が可笑しかったです。

■実演解説 装束付け
続いて山階彌右衛門さん(シテ方観世流)による能の装束付けの実演解説です。摺箔(すりはく)、袴、唐織と、それぞれの装束と着付けの方法を1つ1つ説明してくださいます。胸元から見える摺箔は、金や銀の箔で模様を付けたもので、暗い能舞台で能面を明るく見せる効果があること、女性の着付けの裾(すそ)の部分は、最後を少し上げるように縫いつけて形をほっそりさせることで女性らしく見せていること、装束の色や柄でその役柄の階級が理解できることなど、初めて知ることやなるほどと思うことがたくさんありました。(また山階さんのお話が楽しい!)これから能を見るときにより楽しむことができそうですし、もっと詳しく知りたいとも思いました。まずは図書館に行こうかな!

■紅葉狩
最後のお能は紅葉狩です。舞台となるのは信濃の国戸隠山。紅葉狩を楽しむ女と侍女たちの近くを、平維茂の一行が通りかかります。維茂は女から酒宴に誘われ、酒を飲み女たちの舞いを楽しんでいるうちに眠ってしまったところ、女たちは姿を消します。その時、維茂の夢の中に八幡神に仕える武内の神が現れます。女たちが戸隠山の鬼であることを伝え、太刀を授けて目を覚ますようにと告げます。維茂が目を覚ますと女たちが鬼の姿で現れました。維茂は襲い掛かる鬼たちを武内の神から授けられた太刀で応酬し見事に退治します。
「維茂少しも騒ぎ給はず、南無や八幡大菩薩と、心に念じ、剣を抜いて、待ちかけ給へば、微塵に為さんと、飛んで懸かるを、飛び違ひむずと組み鬼神の真ん中刺し通す所を頭を掴んで上がらんとするを、切り払ひ給へば剣に恐れて巌へ登るを、引き下ろし刺し通し忽ち鬼神を従へ給ふ、威勢の程こそ恐ろしけれ」

いや~、圧倒されました。終わってからもしばらくぼーっとしていました。
〇 〇 〇
  〇 〇
  〇

この絵はなんやねんて感じですが、鬼の姿になる前の女1人(一番前)と侍女5人(二列目・三列目)がこういうフォーメーションで、じわじわ前に歩み寄りながら舞う場面があるのです。ものすごく威圧感があってぞくぞくしました。後半で女たちが鬼の姿になったときよりずっと怖かったです。
通常の上演では、前半は女(シテ)だけが舞い、後半も鬼となって登場するのはシテ一人だけなのだそうです。今回は「鬼揃え」という小書が付いていて、前半は女とその侍女が5人が舞い(上記のフォーメーションも含む)、後半は女も侍女も全員が鬼となって登場し、舞台狭しと維茂と激しく戦います。

前半の笛と小鼓と大鼓のゆったりとした一定の調子に心地よさを感じていたので、女が維茂が寝入ったのを見つけるやいなやの(この瞬間がまた怖かった)、調子の変化に背筋がゾクっと緊張しました。

話の筋が明解で、華やかさがあって、舞や謡にぐいぐい引き込まれるので、私も含めた初心者にもわかりやすいと思いました。今回もよい体験をさせていただきありがとうございました!

<公式サイトへのリンク>
国立能楽堂 2017年11月企画公演