かっちゃんの日記

 -見て、聴いて、楽しかったこと、嬉しかったことの覚え書きです

2018年9月 ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景|太田市美術館・図書館

◆ことばをながめる、ことばとあるく 詩と歌のある風景
 2018年8月7日〜2018年10月21日
 太田市美術館・図書館

 

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今年の夏は本当に暑かったです!ひっそりと過ごしていたので久しぶりの日記です。

東京から少し足をのばして、群馬県太田市美術館・図書館の展覧会に行ってきました。建築の設計は平田晃久さん、ロゴマーク・サイン計画は平野篤史さんで、建物の見学もとても楽しみにしていました。太田駅北口のロータリー周辺は人もお店も少なくさっぱりしているのですが、駅のすぐ目の前にあるこの美術館・図書館は学生さんや子供たちでにぎわっていて、ポッと灯りがともっているようでした。コンパクトな施設ですが、小さな街のようで、入口がいくつもあって、好きなところからアクセスできるようになっています。まず屋上のテラスでボーッとクールダウンしてから、図書館に入って、本を読むのも良さそうだな~。その逆も良いな~。1Fに入っている「キタノスミスコーヒー」でいただいたコーヒーも美味しかったです。

そして、美術館と図書館が一体になった施設ということで、美術館では「本と美術の展覧会」というオリジナルの企画展を開催されています。今回はその第2弾で、テーマは詩と歌(短歌)。3つの展示空間で構成されていました。

◆1.詩とグラフィック
ここでは詩人の最果タヒさんの詩を、グラッフィックデザイナーの佐々木俊さん、祖父江慎さん、服部一成さんがそれぞれ異なる手法で表現されています。

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まだまだ会期があるので1枚だけ写真を掲載します。
上の写真で、バス停の時刻表のような看板に詩が表現されている作品が佐々木俊さんです。「詩の標識、あるいは看板(プリズム)」のように詩のタイトルが添えられた題名で会場のあちこちに置かれています。次に絵画のようにフレームに入り、グラフィックの中で詩がさらさらと流れるように表現されている作品が服部一成さんです。そして手前の壁の端っこで紙が床にずり落ちたような作品と、奥の壁に大きく詩が表現されている作品が祖父江慎さんです。奥の壁にある大きく書かれた詩は、この写真の角度ではなくて、入口から細い順路を通っていく突き当りに、上へ上へと見上げるように現れます。(佐々木さんは9作品、服部さんは5作品、祖父江さんは会場内に隙あらばと15作品もが展示されています)
この空間に自分の体を置いていると、言葉の流れやリズムを感じ、言葉・文字・音の関係について思いをめぐらせ、音になって平面からふよふよと飛び出してきている言葉と対峙したりなんかもして、言葉の面白さを浴びるように感じました。楽しい~!

◆[2.詩と絵画]では、菅啓次郎さんの詩と佐々木愛さんの絵の合作が展示されていました。「Walking」というプロジェクトを行っておられて、お二人が各地を歩くことで生み出された合作だそうです。(太田のまちを散策するイベントも開催されるそうです。楽しそう!)

◆[3.短歌とイラストレーション]では、小さな部屋の中で、惣田紗希さんの太田の風景を壁いっぱいに描いた絵と、明治生まれの太田市出身の大槻三好さん・松枝さん夫妻の短歌が組み合わされて展示されていました。美術館でご当地の作家さんの作品を展示しているのはよく見ますが、現代の作家とのコラボレーションはあまり見たことがなく、面白い試みだな~と思いました。

全体の展示スペースはそれほど広くありませんが、じっくりと時間をかけて味わうことができる展覧会でした。私もそうなのですが、詩があまり身近でない人や、少し難しそうだなと思っている人でも、色々な楽しみ方ができると思います。また頭の中に言葉が文字や音で入ってくる感覚に何かしらの変化が起こったり、最近なんとなく本が読めないという人にも刺激になったりするかも?かもかも?建築や図書館の見学も楽しいので、ぜひ行ってみてください。
※展示会場1は撮影OKで、2と3は撮影できません。
※展覧会の図録は9月の中旬に全国の書店でも販売されるそうです。

<メモ>
浅草-太田までは東武鉄道の特急りょうもうで約1時間半。
車中のお弁当を買うなら東武線と直結している松屋浅草の地下が便利です(お店の数は少なめでちょっとレトロな雰囲気)
私は崎陽軒の「秋のかながわ味わい弁当」を購入しました。東京から群馬に行くのに何でかながわやねんと思いつつも、小田原かまぼこ、三崎産マグロの生姜煮、そして崎陽軒のシウマイなど、神奈川ゆかりの色々なおかずが入って満足!車窓と弁当を堪能しました。 

<公式サイトへのリンク>
本と美術の展覧会vol.2「ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景」
(太田市美術館・図書館)

2018年4月 街歩き|永青文庫「心のふるさと良寛」-肥後細川庭園-雑司ヶ谷鬼子母神堂

記事の順番が前後しますが、4月の街歩きの覚え書きです。お散歩日和のとても良いお天気の1日でした。

■本日の街歩きルート
早稲田駅永青文庫-肥後細川庭園-雑司ヶ谷鬼子母神

東京メトロ東西線早稲田駅を下車してここからスタートしました。お昼どきだったので、スープカレーのお店「東京らっきょブラザーズ」で春限定メニュー「ぱりぱりチキンと春野菜のスープカレー」を美味しくいただきました。

その後、北上して神田川を渡り、最後に急な坂道を登って永青文庫に到着。「生誕260年記念 心のふるさと良寛」をじっくりと鑑賞しました。小じんまりした建物ですが、多くの方が見に来ておられました。特に良寛さんの漢字の楷書が好きなのですが、見ていて飽きません。私が行ったときは前期の「壮年期を中心として」の展示だったのですが、後期の「晩年を中心として」もぜひ行ってみたいです(後期は2018年5月30日~7月11日まで)

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永青文庫 エントランス見上げ

そして、すぐお隣にある肥後細川庭園へ。永青文庫が少し高い位置にあり、そこから下っていくと庭園がぱぁっと現れます。大池と中池を取り囲むように園路が敷かれていて、散策しながらさまざまな植物を楽しむこともできます。6月頃には肥後花菖蒲が見頃になるそうです。(そしてこんなに立派お庭なのに入場料は無料です)

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※肥後細川庭園

そこから更にてくてくと北上して雑司ヶ谷エリアに入り、鬼子母神堂を目指して歩きます。どこらへんで曲がったらええかなと思っていると、大通りを渡ったところに「鬼子母神参道」を発見。おおっ!導かれるままに歩いていると鬼子母神大門とうっそうとしたけやき並木が現れ、ほどなく雑司ヶ谷 鬼子母神堂に到着しました。

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雑司ヶ谷 鬼子母神堂の大公孫樹(おおいちょう)

境内では樹齢約700年というご神木の大公孫樹(おおいちょう)が「よく来たな~」と言わんばかりに迎えてくれます。初訪問できたお礼のお参りをしてから境内を散策。この日は運よく、鬼子母神名物「おせん団子」を販売している日でした!あんことおしょうゆ味の2本セットの素朴なお団子で、境内で食べることもできますが、私はおみやげに買って帰りました。

最後は、都電に乗って(嬉しい!)、早稲田まで戻りました。街歩きルートは下図の通りです。

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google mapでのルート
 |早稲田駅永青文庫-肥後細川庭園-鬼子母神堂・徒歩37分】

全く土地勘がないエリアなのですが、周辺にはホテル椿山荘東京東京カテドラル聖マリア大聖堂(設計:丹下健三)など、以前に行ったことのある場所もあって、頭の中の地図がおぼろげながらにつながった感がありそんなことも嬉しかったです。またぜひ訪れてみようと思います。

<メモ>

永青文庫
肥後細川庭園
雑司ヶ谷 鬼子母神堂

 

2018年5月 国立劇場 文楽公演|彦山権現誓助剣

国立劇場 平成三十年五月文楽公演(5月12日~28日)

<第二部>
・彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち
 須磨浦の段〈約47分〉
 瓢簞棚の段〈約76分〉※終了後、休憩30分
 杉坂墓所の段〈37分〉
 毛谷村六助住家の段〈82分〉

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国立劇場の案内ちらしをお借りしました
 左「本朝廿四孝」横蔵 後に山本勘助
 右「彦山権現誓助剣」毛谷村六助住家の段(撮影:青木信二)

 

お久しぶりの日記になりましたが、その間にすっかり爽やかな季節になりました。季節の変わり目は気圧や気温が不安定でしたが、少しずつ落ち着いてきて、体も気持ちもほっとしているような気がします。洗濯物もカラッと気持ちよく乾いてくれて嬉しい!

そして、体調も良くなったところで、国立劇場の5月文楽公演に行くことができました。やったー。今回は人形遣い吉田幸助さんが五代目 吉田玉助を襲名されるということで、第一部が襲名披露公演の「本朝廿四孝」と口上、そして「義経千本桜」という演目でした。第二部は「彦山権現誓助剣」という演目で、私は第二部に行ってきました。

主人公のお園ちゃんが、父と妹までをも討った京極内匠への仇討ちに奔走するのですが、まぁ格好よくて、かわいらしいのです。

前半の瓢箪棚の段では、その名の通り、瓢箪が植えられている棚の上で二人の戦いが繰り広げられます。初めは刀と刀で一戦を交えて、お園の刀が折られると今度はくさり鎌を手元でぐるぐると回して、京極内匠へ投げつけるのです。この場面の人形遣いはお園が吉田和生さん、京極内匠が吉田玉志さんで、太夫は竹本津駒太夫さん、三味線は鶴澤藤蔵さんでツレの鶴澤清公さんも加わり、緊張が高まります。相手をグッと睨みながら、くさり鎌を投げるタイミングを伺っているお園ちゃんがほんまに怖い。その後、京極内匠が瓢箪棚からひらりと飛び降りて(この時、人形遣いの玉志さんも「はっ」という一声とともに一緒に飛び降ります!)逃げていくのですが、ドキドキする場面でした。

そして後半の毛谷村六助住家の段では、お園は亡き父が自分の婚約者と定め家督を継がせようとしていた毛谷村六助と思いがけず会うことになります。六助が名を名乗り、女房はいないことを確かめたときのお園は、嬉しさのあまりうろうろと完全に浮足立って、「六助をうつかり眺め、見とれゐる」の状態になっています。同じ人形なのに、前半とは全く違う様子のお園ちゃんを見ながら、人形遣いさんの表現の幅は本当にすごいなと改めて思いました。そしてお園は、まだ自分の名も名乗っていないのに、既に女房であるかのように、頭に手ぬぐいを巻いて夕食の支度をし始めます。かまどの火に息を吹きかける火吹竹を尺八と間違えて自分で可笑しがったりして、六助から「全体こなたはマア誰ぢや」と尋ねられるまでの場面は、長いノリツッコミを見ているようでかわいらしくて可笑しかったです。なんとかお互いが誰かを確認できた後は、えらいこと飲みっぷりの良い三々九度を行い晴れて夫婦になります。そしてその後、六助を騙して仲間の母親をも殺した微塵弾正と、お園の父であり六輔の師匠でもある吉岡一味斎を討った京極内匠が同一人物であることがわかり、仇討ちに向かうところで話は終わります。

あらすじや登場人物をだいぶ端折りましたが、仇討ちのストーリーが進行する中で、随所にちりばめられている子が親を想うエピソードもじーんと心に残るお話でした。(お園の妹・お菊の忘れ形見である弥三松が母を恋しがる場面、六助が母の四十九日までお墓の近くの小屋に住んで、三度三度の食事を供えて喪に服している場面など)親孝行せな。今回も良い体験をさせていただいてありがとうございます!

公演は5月28日まで続き、二部は休日も含めてチケットがまだ取ることができるようです。なかなかに長丁場の公演ではありますが、お時間が許せばぜひ行ってみてください。(ずっと座っているとしんどくなるので、30分休憩の時に受付でチケットを見せて劇場の外に出て、軽く体を動かすのがよい感じです)


<追記>
会場ロビーに今年の2月に亡くなられた豊竹始太夫さん、4月に亡くなられた竹本住太夫さんの訃報の立札が設けられていました。素晴らしい舞台を体験させていただいたことに感謝しながら一礼してきました。ご冥福をお祈りいたします。


<公式サイトへのリンク>
国立劇場 2018年5月文楽公演

2018年3月 文楽 京都公演|曽根崎心中と京都御苑

文楽 平成30年3月 文楽 地方公演  
 京都府立文化芸術会館(2018年3月22日~24日)

<夜の部>
・解説(あらすじを中心に)
曽根崎心中|生玉社前の段、天満屋の段、天神森の段

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文楽協会の案内ちらしをお借りしました。


今年も京都の文楽公演に行くことができました。嬉しい!
演目は昼の部が桂川連理柵、夜の部が曽根崎心中で、私は夜の部を鑑賞しました。

地方公演は、初めて文楽を鑑賞する人でもとまどわないように、最初に太夫さんがわかりやすく解説をしてくださいます。曽根崎心中は登場人物も少なめで複雑な話ではないですが、最初の生玉社前の段が始まる前の伏線となる話があるので、それを解説で頭に入れておくことでよりスムースに鑑賞することができます。(字幕表示もあり)

語られる言葉が現代の言葉遣いではなく、話の筋を追うのが少し難しい面はどうしてもあるので、「1回行ってみたいんやけど、全然わからんかったらどうしよう・・」と迷っておられる方は、こういった解説付きの地方公演や、文楽鑑賞教室がおすすめです。お値段も本公演と比べて控えめでこの公演は一般4000円でした。「わからん言葉もけっこうあったけど、語りや三味線の迫力がすごかった、うるっときた、人形がかわいらしかった、けなげやった、男前やった」と、どこかしらに興味を持って、また文楽に行ってみようという人が増えたらええなと思っています。

そして、今回も来年の公演案内パンフレットが配布されていました。京都公演は2019年3月2日~4日で、いつもより少し早いです。演目は義経千本桜と新版歌祭文だそうです。また行けるように頑張って働きたいと思います!


また、公演前に京都府立文化芸術会館のすぐ近くにある京都御苑に行ってきました。桜が少しでも見られたら嬉しいなと思っていたのですが、早咲きの近衛邸跡のしだれ桜は満開になっていました。わ~い!また梅や桃も合わせて楽しむことができて、公演前にすでにホクホクした状態になっていました。
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京都御苑のWEBサイトでは、広大な敷地(南北が約1300m、東西が約700m!)のどこにどんな植物があるかを紹介した散策マップが公開されています。またサイトでは開花状況もこまめに掲載されているので、とても有難し!行かれる際はぜひのぞいてみてください。
京都御苑 公式サイト
京都御苑 公式サイト内|みどころ案内(植物)

また京都府立文化芸術会館の近くには、護浄院(清荒神)もあります。地味な佇まいなのですが、「こうじんさん」と親しまれている火の神さんで、毎年この時期に、古いお札を返して、新しいお札をいただきに寄せてもらってます。火の用心に気を付けていきますので、今年も見守りよろしくお願いします!

 

2018年3月 国立能楽堂 普及公演|墨塗・船橋

国立能楽堂 三月 普及公演(2018年3月10日)
・解説・能楽あんない|恋は罪か 小田幸子(約30分)
狂言和泉流】|墨塗(すみぬり)(約25分)※終了後、休憩20分
・能【宝生流】|船橋(約75分)

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国立能楽堂の案内ちらしをお借りしました。
 薄萌黄地糸巻桜紅葉模様肩衣(明治時代・十九世紀・国立能楽堂蔵)

 

国立能楽堂の普及公演に行ってきました。少し早めに着いたので、資料展示室や中庭を見学したりしていたのですが、来館記念スタンプが新しくなっていることを発見!絵柄は3種類で以前と同じなのですが、スタンプ台を使わずににきれいに押せる仕様に復活していました。あまり目立たないところですが、こういったサービス向上はとても嬉しいな~。ありがとうございます!早速はりきって押しました!

さて、まずは狂言の「墨塗」からです。
長い間、都に滞在していた大名が自分の国に帰ることになり、太郎冠者を伴って、親しくなった女のところに別れを告げに向かいます。女は泣きながら恨み事を言い、大名も一緒になって泣きだしてしまうのですが、太郎冠者は、女が水入れの水を目につけて嘘泣きをしていることに気づきます。太郎冠者は大名にそのことを伝えますが信じてもらえないので、水入れの水を墨と取り換えたところ、女の目の下が墨で黒くなってしまい、大名も嘘泣きだったことを知ります。怒った大名は一計を案じ、別れの形見にといって手鏡を女に渡します。手鏡で自分の顔を見た女は自分が謀られたことに気づき、これまた怒って大名と太郎冠者を追いかけまわし、顔に墨を塗り付けるというお話です。

大名の役は井上松次郎さんです。登場されて、第一声が放たれたときに、観客の皆が舞台にぐっと集中するような感がありとても良いお声でした。自分では別れを切り出せない気の良い大名と、代わりに面倒な段取りを任されるまじめな太郎冠者の表情の違いが何とも可笑しかったです。


続いてお能船橋です。
舞台は上野国 佐野の渡し(今の群馬県高崎市)、旅の途中の山伏のところに、若い男女がやってきて船橋を作りたいと告げます。船橋とは、川を渡るために、水面に船を並べて、その上に板を乗せた簡易的な橋のことを指します。山伏がその理由を尋ねると、「昔この辺りに住んでいた男女が船橋を渡って逢瀬をしていたが、親が反対をして船橋の板を取り外してしまい、そうとは知らずに橋を渡ろうとして川に落ちて死んでしまった。実はそれは私たちのことで、今もなお苦しみの中にあるため弔ってほしい」と答え姿を消してしまいます。

山伏が付近に住む人にこのことを話すと、二人を弔うように勧められます。そこで山伏が回向を始めたところ女の霊が現れて、おかげで成仏できましたとお礼を伝えます。続いて男の霊が現れ、まだ成仏できないと言うので、山伏は執心を振り捨てるように告げます。男は懺悔の告白をするかのように橋から落ちて命を落としたときのことを語り、水の中に沈んでその執心で苦しんでいたが、山伏の回向のおかげで「浮かめる身」になって、成仏できたと言って消えていくのでした。

話の流れとしてはこんな感じなのですが、重要な要素を端折って書いておりまして、この作品は万葉集の歌が題材となっています。お能では元歌から少し変わり「東路の佐野の船橋とりはなし、親し離くれば妹に逢はぬかも」となるのですが、この歌やその一節がキーフレーズとなって何度か登場します。

動きが多いお能ではないですが、万葉集の歌を題材とする詞章の面白さや、親の反対で結ばれることなく、死んだ後も苦しみ続ける男と女が、同時にあるいは掛け合いのように互いの心情を謡い、最後に山伏の「法味功力」によって二人が成仏する場面が心に残りました。
「執心の鬼となつて、共に三途の川橋の、橋柱に立てられて、悪龍の気色に変はり、程なく生死娑婆の猛執、邪淫の悪鬼となつて、我と身を責め苦患に沈むを行者の法味功力により、真如発心の玉橋の、真如発心の玉橋の、浮かめる身とぞなりにける、浮かめる身とぞなりにける」


<メモ>
今月のちらしの模様がすごく好きです!プログラムの解説によると、小さめの狂言肩衣だそうで、春にも秋にも使えるように桜と紅葉という季節の異なる模様が2つ入っているそうです。ぜひ実物を見てみたいな~。いつか企画展などで展示していただけることを願っています!

<公式サイトへのリンク>
国立能楽堂 2018年3月普及公演

2018年2月 熊谷守一 生きるよろこび|東京国立近代美術館

◆没後40年 熊谷守一 生きるよろこび
 2017年12月1日〜2018年3月21日
 東京国立近代美術館

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※会場出口付近のフォトスポット。
 「猫」1965年 愛知県美術館 木村定三コレクション


国立劇場文楽を鑑賞した後、てくてくと散歩を楽しみながら東京国立近代美術館の、熊谷守一の展覧会に行ってきました。

熊谷守一1880年明治13年)に岐阜県で生まれ、1977年(昭和52年)に97歳でその生涯を終えますが、今年は没後40年にあたるということで、今回の回顧展が開催されたそうです。何がきっかだったかは忘れてしまったのですが、以前からとても好きな画家で、今回もとても楽しみにしていました。

会場構成は、「1章:闇の守一(1900~1910年代)」、「2章:守一を探す守一(1920~1950年代)」、「3章:守一になった守一(1950~1970年代)」に分かれていて、約200点の作品が展示されていました。

1章では、暗闇や暗い環境での光の表現を追及した写実的な作品が並びます。次の2章では、モチーフも表現方法もさまざまな作品が並びますが、そこから晩年の画風が少しずつ確立されていく過程を見ることができました。日の光があたる山の稜線を赤い線で表現する作品など光と影の追及はここでも続いています。

最後の3章では身近なものをシンプルな線と色で表現したよく知られる画風の作品が並びます。その中で、1956年に描かれた「ヤキバノカエリ」という作品が印象に残っています。若くして亡くなった長女の遺骨を持って家族3人が家に帰る風景を描いた作品です。この作品も人や道は単純化して描かれており、どこか飄々とさえする雰囲気もあるのですが、悲しいとか寂しいとかいうこととは少し違って、もうこの世にいないんだという事実や気持ちも純化されているように感じました。

冒頭写真の猫をはじめ、猫だけが並ぶスペースや、ちょうちょ、とんぼ、魚、たまご、お餅など、小さくて愛着のあるものたちが、わらわらと並ぶスペースは、思わず顔がほころんでしまいます。小さいお子さんもニコニコして見ていました。要所要所に設けられた解説も丁寧で、熊谷守一を知らない人も知っている人も、誰もが楽しめる展覧会だと思いますので、ぜひおすすめします。周辺の公園の桜はもう少し先ですが、春の兆しも感じられると思います!

 

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※記念にポストカードを何枚か購入しました。わーい!
(上)熊谷守一《向日葵》1957年頃 静岡近代美術館 大村明
(下)熊谷守一《稚魚》1958年 天童市美術館

 

<公式サイトへのリンク>
没後40年 熊谷守一 生きるよろこび 特設サイト(東京国立近代美術館)

2018年2月 国立劇場 文楽公演|八代目竹本綱太夫五十回忌追善・豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露

国立劇場 平成三十年二月文楽公演(2月10日~26日)
<第一部>
・心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)
上田村の段(約56分)※終了後、休憩30分
八百屋の段(約43分)
道行思ひの短夜(約29分)

<第二部>
・花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)
万才・鷺娘(約21分)

・八代目竹本綱太夫五十回忌追善/豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露
口上

・追善・襲名披露狂言
摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)
合邦住家の段(約1時間40分)

<第三部>
女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)
徳庵堤の段(約27分)
河内屋内の段(45分)※終了後、休憩25分
豊島屋油店の段(約55分)
同   逮夜の段(約20分)

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国立劇場の案内ちらしをお借りしました
「摂州合邦辻」合邦住家の段(撮影:青木信二)

 

今年初めての文楽に行ってきました。わーい。
第二部に、豊竹咲太夫さんの父にあたる八代目竹本綱太夫の五十回忌追善と、咲太夫さんの弟子にあたる豊竹咲甫太夫さんの六代目竹本織太夫襲名披露の口上がありました。「織太夫」は八代目綱太夫の前名です。口上の後、追善・襲名披露狂言として摂州合邦辻が上演されました。また第一部の心中宵庚申、第三部の女殺油地獄についても、八代目綱太夫が曲の伝承に深く寄与しており、口上は第二部に組み込まれていましたが、公演全体として追善の趣がある構成となっていました。

お祝いということもあってか、いつもより和装の方が多かった気がします。「一緒にお祝いする」という気持ちや、それをきっかけに「今日は一張羅を着よう」「いつもよりちょっとおしゃれをして行こう」と楽しめるのはええことやな~と思います。私は普段通りでしたが、またそれも良し。

一方、演目については、第一部から第三部まで、花競四季寿を除いてお祝い感があるものはなく、例によって「何でこの人が死ななあかんねん・・・」という話が見事に揃っていました。それぞれの演目で、形は違えど主人公が息絶えてしまう結末、そこに至るまでに繰り広げられる心が痛くなるような情景に引き込まれました。

特に印象に残ったのは、摂州合邦辻の後場で、今回襲名された織太夫さんと三味線の燕三さんです。後半、玉出御前が瀕死の状態で「実は・・・」と自分の取った行動の裏にあった真実を語り始め、それとは知らず娘を刺してしまった父・合邦が悔みの念と娘への情を語り、そして皆が玉出御前の成仏を願って念仏を唱える場面あるのですが、三味線が「詰めてくる」感じはぞくぞくしました。

とりどり広げる数珠の輪の
中に玉手は気丈の身構へ、俊徳丸を膝元へ、右に懐剣、左に盃
外には父(てて)の親粒が、導師の役と鉦撞木(かねしゅもく)
母は涙の目も開かず、宵は死んだと思ひ子が、回向のための百万遍
今また無事なと悦んだも、露と消え行く勤めの念仏

文字として眺めているだけだと、身近な言葉遣いではないですし、取っつきにくいのですが、節が付いた語りと三味線は、流れるように心地よく頭の中に入ってきます。自分で口に出してみるのも楽しいです。(もちろん公演中は心の中で!)
今回も良い体験をさせていただきありがとうございました。

<追記>
この公演の初日に豊竹始太夫さんが亡くなられました。2017年12月公演のひらかな盛衰記・義仲館の段の義仲役が、私が最後に聴かせていただいたお声になりました。
お祝いの公演が続きなかなか難しいかもしれませんが、どこかのタイミングで献花台など設けられましたらお参りさせていただきたいと思います。まずはこの場で手を合わせて、ご冥福を心よりお祈りいたします。

<公式サイトへのリンク>
国立劇場 2018年2月文楽公